デュポン・MCC株式会社
2024.10.16
駅周辺の再開発計画で注目が集まる新小岩(東京都葛飾区)に、飲食業特化型のインキュベーションラボ「東京tebiki隣(となり)」が誕生した。2024年6月30日に竣工した同施設は地上3階建てのビル。1階は設備の整った3つのシェアキッチン、2 階は商品開発や料理教室、撮影向きのスタジオキッチン、3階はデスクワークに便利なコワーキングスペースとなっている。飲食店経営に必要な知識やノウハウを学べる各種セミナーや個別コンサルティングなどのサービスも用意されていて、単なる場の提供にとどまらず、これから飲食店に挑戦したいと考えている人をさまざまな方向からサポートする施設だ。
「東京tebiki隣」を手がけたのは、不動産事業を中心に、リフォーム事業やフィットネス事業など、新小岩の街に根ざした事業を展開する有限会社セレナ。コロナ禍で、多くの飲食店が経営不振に陥った街に活気を取り戻し、街の魅力を再開発する新規事業として取り組んだという。「私自身が生まれ育った街でもある新小岩が、よりよく発展するように何かできないだろうかという想いがきっかけでした。飲食店経営を目指す方たちが『東京tebiki隣』で独立のための準備を整えて、その後に新小岩に店舗を構えてくれたら、人が集い、賑わいのある街になると考えました。もともと不動産業と建設業を営んでいますから、出店のサポートまでワンストップで対応が可能です」と同社の近藤卓社長。
築年数の古いビルをリノベーションし、「東京tebiki隣」として活用するにあたり、同社が空間プロデュースとデザインを依頼したのは株式会社STUDIO KAZ和田浩一氏。「外観は新小岩という街が持つ、親しみやすさや下町情緒に似合うデザインに、内装は各フロアで用途が異なるので、それぞれに雰囲気を変えました」と和田氏。
2階のスタジオキッチンは料理が映える明るいグレーを基調とした空間で、その中心にあるアイランドキッチンのカウンターとダイニングテーブルのトップにコーリアン®︎「セージブラッシュII」が使われている。木とコーリアン®︎の組み合わせにブラックのアクセントを効かせた、程よいナチュラル感とラフさのあるキッチンだ。
面材はオーダーメイドの天然木化粧合板。立ち枯れして建材としては使用できなくなったナラの木をアップサイクルした素材だという。「所々虫食いのような穴がある材なのですが、合板の下地になるベニア板に色をつけておくと、その色が見えて面白い仕上がりになります。今回、下地は緑みのあるターコイズブルーで塗装したので、カウンタートップにもほんのりと緑色を感じられる“セージブラッシュⅡ”を合わせました」。
キッチンをデザインする上で、いかにインテリアに馴染ませるかという点を大切にしている和田氏。使用する素材はインテリアと色や質感を合わせて、ディテールは主張させず、水栓やシンクといったキッチンらしいアイコンを目立たせないなどの手法で、空間と一体化するキッチンを実現している。このスタジオキッチンでは、壁面に使用したタイルに緑みのあるものを選び、ダイニングテーブルのトップにも「セージブラッシュⅡ」を使用するなど、キッチンが単体ではなく空間の一部としてデザインされていることがよく分かった。
新小岩の街と食を愛する人が集う「東京tebiki隣」。1階のシェアキッチンには曜日替わりで多彩な飲食店が出店する予定だ。ここから始まる小さな飲食店が、やがて街の顔となり、新たな賑わいを生み出す日もそう遠くないだろう。
【東京tebiki隣】
●運営/有限会社セレナ
●デザイン・設計/株式会社STUDIO KAZ
●使用色/セージブラッシュII