デュポン・MCC株式会社
2021.10.25
京都御所の南向かい、富小路通りの角に、町屋をリノベーションした鉄板焼き「富小路RAKU」がオープンした。外観は、面格子に瓦屋根、漆喰塗りの壁など、京町家らしい風情ある佇まい。ところが、メインカウンターのある2階に通されると、雰囲気は一変する。モノトーンのインテリアと、窓から見える御所の緑の美しさが相まって、思わず感嘆の吐息をもらしてしまうような、モダンで上質な空間が広がっている。
設計を担当した小西啓睦氏は、京都を拠点に建築から家具やグラフィックデザインまで幅広く手掛けるデザイナーだ。「リノベーションにあたり、オーナーからは既存の町屋の構造を生かしたいということ、それでいて、鉄板焼きというコンテンポラリーな料理に似合う空間にして欲しいというご要望がありました」。
外と内にギャップを作り、それぞれのデザインを引き立てる設計手法は、京町屋を生かした店舗づくりでは多くあるとのことだが、「富小路RAKU」の内部は、伝統的な外観と対照的な印象でありながら、建物全体とのつながりも感じる空間だ。
「設計段階で気を使ったのは、なるべく空間に寄り添いながら、モダンな空気感を創ることでした。柱や梁をなるべく現して、構造美を見せていますが、町屋ならではの木の素材感やエネルギーが強いので、どうしても民芸調な印象になりがちです。そこで、今回は、町屋の空間を生かしながら、それと対峙するモダンな素材を組み合わせていくことにしました」。
そう話す小西氏が目指したのは、伝統とモダンの対比ではなく、バランスのとれた融和だった。「たとえば、天然石や無垢材など素材感の強いものでカウンターを作ると、空間の持つエネルギーが増幅して、重厚感や緊張感が生まれると思います。そうした雰囲気は、富小路RAKUの提供したいサービスや時間とはアンマッチだと考えていました」。
メインカウンターの素材として選ばれたのは、コーリアン®︎の「ココアプリマ」だった。奥行きのあるL字型の客席カウンターと、そこに一体化したバックカウンターまで継ぎ目なくつながる大きな天板として用いられている。
「バックカウンターまで一つの大きなテーブルとしてイメージしました。フラットで大きな天板の上で、一つひとつの料理が料理人によって作られ、美しい盛り付けで供されるまでがライブで行われ、お客様がそれを囲んで一緒に食することで、時間と場を共有し、コミュニケーションや一体感が生まれる空間の中心になるカウンターにしたいと考えました」。
当初、カウンターの素材として検討されたのは、セラミックタイルやモルタル調の左官材。どちらもモダンスタイルのインテリアで主役を務める素材であるが、いくつかの理由からコーリアン®︎が抜擢されたという。
「まず、これだけのサイズでも目地なく作ることができるので、食器がひっかかる心配がありません。また、ダイニング全体を同じ素材で作ることができるという施工性の高さなど、様々な条件を考えた結果、最終的にはほかの素材は考えられませんでした。さらに、工場で加工したものを搬入し、現場で組み上げるので、工期がぐっと圧縮されるなど、今回求めていた条件のすべてが整っていました。メンテナンス性もよいし、柄も豊富に選べるところもよかったですね」。
唯一の懸念材料は、「ココアプリマ」が複雑で大きな流れ模様の柄であるため、ジョイント部分で柄が途切れてしまうことだった。「実際に施工していただいたものを見ると、継ぎ目がほぼ分からず、創造以上にダイナミックな仕上がりでした。これまでコーリアン®︎は水回りやキッチンのカウンターなどに使うことが多かったのですが、今回のような大きな面でもデザイン性の高い柄で作ることがわかったので、空間の主役になるような使い方ができますね。今後もぜひ使ってみたいと思います」。
完成後、リノベーションに関わったスタッフと共にカウンターで食事をする機会があったという小西氏。「コーリアン®︎のカウンターは食器との相性もよく、存在感はあるのに、決して料理の邪魔をしない。バランスのよさを実感しました。そもそも人工的なものであるはずなのに、木や土壁といった自然素材の中に置いても違和感を感じることがなく、それぞれの素材のエネルギーを和らげ、つないで、空間を整えてくれるようで、他の素材にはない力を感じます」と、あらためて感じたことも語ってくださった。
【富小路RAKU】
●デザイン/miso 小西啓睦 http://www.miso-miso.com
●施工/株式会社オー・エヌ・イー 高松良介
●コーリアン®︎加工/株式会社コスモ建材工業
●使用色/ココアプリマ