触ってわかる、誰もが迷わず歩ける美術館へ
東京都現代美術館

2026.2.5

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PHOTO:YOSHIHITO IMAEDA

館内の主要動線や階層構造を立体的に示した触察模型《さわる/みつける MOT》。1300×700mmのスケールで、空間全体のつながりを直感的に把握できる。

複雑な動線を“触って理解できる形”へ

 東京都江東区にある東京都現代美術館では、2025年に開催されたデフリンピックを契機として、誰もが作品と空間を楽しめる鑑賞環境づくりに取り組んできた。その成果のひとつが、館内の構造を立体的に示す触察模型《さわる/みつける MOT》だ。模型は1階インフォメーションカウンター横に設置され、来館者が自由に触れて館内動線を把握できる。

 美術館は地上と地下が枝状に広がる複雑な構造を持ち、「とくに地下2階がわかりにくく、迷う人の姿がよく見られていた。そこで、障害の有無にかかわらず来館者が身体感覚で空間を理解できる手がかりを増やすため、模型の企画がスタートした」と、事業企画課 教育普及係長の鳥居茜氏は振り返る。
 「東京都が推進する『クリエイティブ・ウェルビーイング・トーキョー』の一環として、館内をもっとわかりやすく伝える取り組みを強化してきました。複雑な動線を“触れる形”にすることは、当館にとって大きなテーマでした」

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触察模型《さわる/みつける MOT》は、1階インフォメーションカウンター隣の、来館者が動線を確認しやすい位置に配置されている。車椅子利用者にも配慮して設計され、誰にとっても使いやすい高さとレイアウトが整えられている。

専門家とつくり上げた “触察模型”

 模型の制作には、日本デザインセンターの山口萌子氏に加え、視覚障害者の鑑賞に詳しい半田こづえ氏が初期から参加。紙模型の検証や等身大モックアップの確認、模型の高さや角の丸みの調整など、専門家との丁寧な協働を重ねながら進められた。
 「模型は“建物外観を伝えるミニチュア”ではなく、触って館内の構造や位置関係を理解するための道具です。触れたときに空間の区切りや方向性が読み取りやすいよう、触認性を損なわない立体のつくり方を、実際の動線と照らし合わせながら詰めていきました。コーリアン®の高い加工性があったからこそ、こうした細部の表現が自在に実現できたのだと思います」

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カメオホワイトは穏やかな白で、館内サインの白とも親和性が高い色です。木材の素材感とも自然に調和し、視覚的にも“触れてみたくなる”印象があるため、この色を選定しました」と、デザインを担当された日本デザインセンター 山口萌子氏。

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館内の象徴である三角形が連続するトラス構造を、触って理解できる形で模型にも再現。特徴的な稜線が、建物の骨格を立体的に伝える手がかりとなっている。

 こうした検討を経て、本体の表面材として採用されたのがコーリアン®である。多くの来館者が触れる模型であるからこそ、耐久性とメンテナンス性はもちろん、手に触れた瞬間の“心地よさ”が重視された。
 「壊れにくいことはもちろんですが、指紋が残りにくいこと、角を安全に仕上げられること、触れたときの温度感がやさしいこと。そうした条件を満たせる素材でした」
 設置後、いろいろな来館者が模型の稜線や凹凸を見たりなぞったりしながら空間のつながりを確かめている様子が見られるという。視覚障害の有無にかかわらず、立体的な情報は空間理解を助ける。
 「平面図より“立体のほうがずっとわかりやすい”という声をいただきました。素材がしっかりしているので、“壊してしまうかも”という不安がなく、安心して触れることも大きいのだと思います」

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地下2階エリアの構成を立体化し、複雑な動線を直感的に把握できるようにした。壊れにくさと清潔さ、やさしい触感を備えたコーリアン®︎の特性がその体験を支えている。

誰にとっても使いやすく、美しく

 鳥居氏は、この模型が「特定の誰かのため」のものではないと言う。
 「視覚障害のある方だけに向けたものではなく、どなたにとっても“ここはどういう場所か”が理解しやすくなるものとしてつくりました。美術館をもっと自然に、もっと自由に楽しんでもらいたい。その思いを形にしました」
 《さわる/みつける MOT》は、空間に溶け込みながら、東京都現代美術館がめざす“すべての人をウェルカムにする美術館”という理念を、確かなかたちで支え続けていくだろう。

(文:永山 八重)

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印字箇所はアクリル板を象嵌。点字表記は表面に印字し、展示室名と背景色は裏面にUV印刷を施すことで、耐久性とデザイン性を備えた仕様に。文字と指先の感触が両立する仕上がりが、誰もが利用できる案内として活きている。

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曲線や稜線のわずかな段差も触れてわかるように仕上げられている。視覚障害の有無にかかわらず、立体的な情報は空間理解を助け、館内の位置関係をより確かなものにしてくれる。

【東京都現代美術館】
●デザイン/株式会社日本デザインセンター
●製作/株式会社ジャクエツ
●コーリアン®︎加工/株式会社エイペクス
●使用色/カメオホワイト