PHOTO:YOSHIHITO IMAEDA
リビング側から見たキッチンの全景。グレーを基調とした空間にブラウンのキッチンスペースが溶け込み、下がり天井の間接照明が優美な光を拡散する。
デュポン・MCC株式会社
2026.5.8
PHOTO:YOSHIHITO IMAEDA
リビング側から見たキッチンの全景。グレーを基調とした空間にブラウンのキッチンスペースが溶け込み、下がり天井の間接照明が優美な光を拡散する。
兵庫県郊外。池と豊かな樹木に囲まれ、自然の気配が色濃く残るエリアに、ブラウンのモダンな平屋が佇んでいる。敷地の向かいには水辺が広がり、朝夕の光や季節の移ろいによって景色は表情を変える。そうしたロケーションを活かすため、1階に広がるLDKは大きな窓で外へと開かれ、自然の眺めを存分に楽しめるくつろぎの空間となっている。
玄関ホールから一歩足を踏み入れると、4mを超える高い勾配天井の開放的な空間が視界に広がる。高窓を備えた大開口のサッシ越しに美しい池畔の風景が広がり、室内にいながら外との連続性を感じられて心地良い。空間全体はグレーを基調にし、左官仕上げの壁や石目調タイルフロア、無垢材の天井など、素材の質感や色合いを生かしたしつらえとなっている。
天板、側面、シンクをコーリアン®「ココアブラウン」で一体化。薄い小口と張り出しデザインで輪郭を際立たせてシャープな印象に。キャビネット部の正面はブロンズミラー張り。
そのLDKの一角に据えられているのが、洗練された造形のまるで家具のようなキッチンだ。T氏邸の設計を手掛けた田中一郎建築事務所のたなかいちろう氏は、次のように語る。
「キッチンは大人しいものより、多少派手な印象のデザインにした方がこの空間に似合うと思いました。ただし、広いLDKの中でキッチンだけが浮いてしまうのは避けたかったのです。空間全体の一部として馴染むデザインを意識しながらも、ホームパーティーの場としても活躍するような、“魅せるキッチン”を目指しました」。その言葉通り、ブラウンカラーのキッチンがグレーの空間に気品高く溶け込んでいる。
キッチンは内側にグレー塗装の引き出し収納を備え、食洗機もビルトイン。取手の見えないすっきりとしたデザインが美しい。コンロの横奥にパントリースペースも完備。
天板に選ばれた色柄は、コーリアン®「ココアブラウン」。ブラウンをベースカラーに、大小さまざまなクランチが混じり合い、落ち着きある風合いを醸し出している。また、天板の下のキャビネット部分はブロンズミラーで仕上げ、勾配天井の下の壁には鉄錆柄のパネルを張り、キッチンの背面収納は細いストライプ柄のガラス扉にするなど、異なる内装材を調和させ、キッチンスペース全体に豊かな表情を創り出している。「個性のある素材を使っている分、キッチンの形そのものはできるだけシンプルにしています。素材単体で見ると強く感じるものも、空間全体で見ると過度にならず、ちょうど良いバランスに収まりました」とたなか氏。
キッチンは、長さ約2550mm、幅は約850mm。天板と側板はキャビネット部分よりも200mm前に張り出した設計で、小口を12mmに抑えてシャープな印象に仕上げている。側板は奥へ行くほど厚みを増すテーパー加工を施し、最奥部では50mm厚に。正面から見たときの軽やかさと、奥行き方向に感じる量感、そのコントラストがキッチン全体に安定感を与えている。シンクの加工も見どころだ。天板と同じコーリアン®を用い、シームレスジョイントで天板と一体化している。
天板・側板ともに小口12mmのスリムな形状ながら、側板はテーパー加工で奥へと厚みを持たせ、軽やかさと安定感を両立させている。
シンクもシームレスジョイントで天板と一体化し、排水口の蓋まで統一する徹底ぶり。継ぎ目を感じないため、清掃もしやすい。加工性の高いコーリアン®だからこそなせるデザイン。
このキッチンのデザイン・製作を行ったのは、神戸・今井商店の代表であり、家具デザイナーの今井智仁氏。
「ステンレスなど別の素材と組み合わせると、どうしても継ぎ目に汚れが溜まりやすくなります。コーリアン®でシンクも一体化すれば、見た目もすっきりしますし、清掃しやすくて使い勝手がいい。清潔感もデザインの大切な要素であると私は考えています」と語る。
今井氏にとってキッチンは、単なる設備ではなく、居住空間に刺激を与える存在だという。
「使いやすさだけではなく、そこに立ったときに心地よさや高揚感を感じられるかどうか。それを追い求めることが結果として長く大切に使い続けてもらえるキッチンにつながると思っています。今回もコーリアン®の優れた加工性や、耐久性、メンテナンス性を生かしながら、見る人、使う人の感性をくすぐる意匠を実現できました」
ホームパーティーの際には、キッチンを囲むように人が集い、料理やグラスを手に自然と会話が広がっていく。ブロンズミラーに揺れる光と人影、そして研ぎ澄まされた天板と側板の輪郭がひとつの情景をつくり、招かれたゲストの記憶にも深く残ることだろう。
(文:菱沼 晶)
【兵庫T氏邸】
●設計/田中一郎建築事務所
●キッチンデザイン・設計・施工/神戸 今井商店
●コーリアン®加工/マーブル建材株式会社
●使用色/ココアブラウン